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日本六古窯として八百年以上にわたり受け継がれてきた丹波焼。
六十以上の窯元が並ぶこの立杭の地に丹波焼の里のシンボル、最古の登り窯がある。百二十年もの時を経て、現在も使い続けられているこの窯は、全長四十七メートルにもおよび、訪れる人に丹波焼の歴史を伝えている。

この最古の登り窯を下り少し行くと、源右衛門窯は見えてくる。
明治時代の始めから続き初代源右衛門の名を継ぐ、五代目の市野晃司さん、六代目の太郎さん、そして晃司さんと結婚後五十年以上、鎬を入れる作業(丹波焼の伝統技法で、器の表面を削って稜線模様を施す)を担当されているお母さんの三人で営んでいる。

この日もそばちょこの仕上げをする晃司さん、鎬を削るお母さん、そして太郎さんのろくろを回す音だけが作業場に響き、静かで穏やかな時が流れていた。

黙々と鎬を削っていく作業(写真左)、真剣な眼差しでろくろでを回す太郎さん(写真右)

 

伝統をアレンジし、現代の暮らしになじむ器へ

晃司さんの代から始めた食器類、その伝統を引き継ぎながらも太郎さんがつくる作品は、水玉やしま模様などモダンなデザインが特徴的。
「食器棚のあそこに飾ろうかな」と見ているだけで、家にある風景が自然と思い浮かび、暮らしになじむと女性を中心に人気をよんでいる。

ぽってりした形と、モダンなデザインの器たちには、太郎さんの朗らかな性格が現れている

 

時にポップな印象をも受ける太郎さんの作品、しかし発想の原点は、意外にも日本の伝統模様から始まっている。

「市松模様であるとか縞模様(しまもよう)であるとか、昔からある模様やかたちを自分なりにアレンジする。そして現代の感覚にあったものにしてみようというところから始まったんです。定番の淡いグリーンなどの優しい色合いも、釉薬のテストを重ねることで偶然出てきたんですよ」作品の印象と同じく、太郎さんの口調は優しく穏やかだ。

女性に手とってもらいやすいデザインを心がけている太郎さんだが、男性が女性の好みやすいデザインを考えるのは難しくないのだろうか。

「うーん一般的に男性が好みやすい、ぐい呑みやとっくりなどの、ごついデザインを考えるよりも、僕は優しい女性向けのものの方が得意なのかもしれません。
でも、母、妹、嫁など周りにいる女性にもこんなのがいいかなと聞いて、参考にしています。
あと、お客さんやギャラリーを運営されている女性スタッフの方の意見もありますよ。
そうそう、模様の名前はほとんどギャラリーの方がつけてくれたんです。パズル模様とよんでいる器は、もともとは新市松って名前だったんですけどカッコ悪いからこっちにしようって決めてくれました。」

パズル模様の各皿

ネーミングもデザインも良いと思うものは、周りの意見を広く受け入れる。そんな太郎さんの度量の深さが、現代の生活にもなじむ作品を生み出している。
まるで伝統を守りながらも、時代時代の流れを寛容に受け止め進化し続けてきた丹波焼そのもののようだ。

そんな太郎さんだが、丹波焼を始めた頃は今とは違う作風だった。
「最初は僕も登り窯を使って、ごつごつした作品をつくっていたんですよ。でも、15年ほど前にモデルチェンジしたんです。自分なりの丹波焼をつくりたいと思って。それが今の作風につながります」。

太郎さんが丹波に戻ってきたのは二十五歳の時、それまでは愛知県の瀬戸市で一年。岐阜県多治見市で三年半、黒岩卓実先生の元で修行をしていた。丹波に戻ってきたのは、修行終了のタイミングで子供が生まれたからだ。

「修行中やのに子供ができたなんて、怒られること覚悟で師匠に話したら、めでたいことやと喜んでもらえた。結婚式では『焼き物をつくるのはへたやけど、子供つくるのは上手やった』とスピーチで言われて」

その場にいた皆から笑みがこぼれた。笑い話を交えつつ雰囲気を穏やかにしてくれる、そんなところからも太郎さんの朗らかな人柄が伝わってくる。

 

トランクデザインと見つめる先は国外へ

源右衛門窯ではトランクデザインとHyogo craftオリジナル商品の開発も行っている。
トランクデザイン代表の堀内康広と太郎さんとの出会いは、今から数年前にさかのぼる。トランクデザインが関わっていたカフェで丹波焼を使いたいと提案したところ、それならばと太郎さんを紹介されたのが始まり。

今では、同じ兵庫の伝統産業、淡路島のお香と太子町のマッチからできたマッチ型のお香「hibi」の香台や洋食にも和食にも似合うオリジナル食器の作成など、丹波焼の新しい可能性を広げている。

 「トランクさんとのものづくりはいい経験をさせてもらっています。ひとりでは思いつかない新しいデザインのことなども教えてもらって刺激になっているし。何よりhibiは国外でも販売されているので世界的ブランドとコラボできるのは大きな喜びです。同じ兵庫県に生まれてよかったなと思うぐらい。」

hibiと日本各地の志ある作り手が、ともに伝統をアップデートしてゆくコラボレーションとして源右衛門窯と共に作られた、香台「SOW」

トランクデザインとのコラボレーションで生まれたお椀。
掛け分けた美しい釉薬にお米が映えて、ご飯が進みそうだ

民芸の魅力と登り窯に感じる可能性

太郎さんは今、新しい作風にチャレンジしようとしている。

「歳を重ねるにつれ、昔から丹波焼に引き継がれている民芸の魅力を作風に取り入れたいと思うようになりました。親父やおふくろがやっている、鎬の技術も大事にしたいですし。登り窯を使って鎬のものを焼いたら、新しい感覚のものができるとおもうんです。
市松模様などのデザインを登り窯で焼いたらどんな表情になるのかもおもしろそうだし」

これまで太郎さんの作品は主に燃料がガスであるガス釜を使用している。一方、登り窯は燃料に薪(まき)を使用するため木の灰や釉薬の混ざり具合で、全く違った表情の器になる。

実験的に登り窯で焼いた市松模様の器を見せてくれた。
「渋くてかっこいいでしょ。料理人の人とか喜んでくれそうで」
炎に焼かれ、灰がかかり、釉薬が溶け合って出来上がった作品には、これまでとは違う迫力を感じる。

実験的に登り窯で焼いた器は今までと違った作風で、新たな可能性を感じる

管理が難しくなり、県や組合、美術館に譲渡したが最古の登り窯の最後の所有は、源右衛門窯だったことをこの日、太郎さんは教えてくれた。

 時代の流れを察知する太郎さんの感性と、晃司さんたちの鎬をはじめとする技術、二代の混ざり合った作品。それが、登り窯に入る時、自然の力はどんな表現をみせてくれるのか。太郎さんのチャレンジにまたひとつ新しい丹波焼が生まれる。

 

ディレクション:TRUNK DESIGN Inc
編集・撮影:TRUNK DESIGN Inc
文章:森田 那岐佐

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