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兵庫県丹波篠山市で、約850年受け継がれている「丹波焼」。その発祥は平安時代末期から鎌倉時代のはじめといわれ、日本六古窯のひとつに数えられている。
丹波焼は、水などを溜めるかめや徳利、食事の器など、日常生活で使われる焼き物として発展してきた。当初は壺やかめ、すり鉢などが主な製品だったが、江戸時代前期には茶入・水指・茶碗など茶器類で名作が生まれ、後期には篠山藩の保護育成により「直作」「一房」「花遊」「一此」などの名工が腕を競って、丹波焼の名が多くの人に知られるように。

その後、時代の移り変わりを経ながら、現在は食器や花器などの民芸品を中心とした作品づくりが行われている。

窯の奥にある登り窯は、この場所に引っ越してきた1990年頃から今も現役で使われています

粉引によって、確立された器づくり

その丹波焼を継承している窯元のひとつが、「丹水窯」。現在は先代の父とともに、7代目の田中聡さんが職人を務めている。
祖父や父が陶器を作る現場を見ながら幼少期を過ごし、高校卒業後に美術を学ぶために、専門学校へ。その後京都の職業訓練校で釉薬について知識を深めると、24歳の頃に家業を継いだ。

「それからは試行錯誤の日々でした。自分の強みはなんなのか。どうやって個性を出していくのか。誰か師匠のもとについたわけではなかったので、そもそも自分が何を目指すべきなのかから考えて、悩みながら器づくりをひたすら続けていました」

陶器を作る仕事とはいえ、芸術性の高い美術品を作るのか、日用品としての器を作るのか、作るものの種類によっても、職人として目指す方向性が異なる。田中さんは学生時代に、「日常使いされるような器を作る」と決めたものの、自分らしい器がどんなものなのか、なかなか見出すことができなかった。その中で、影響を受けたのが九州で器をつくっていたうつわ工房の熊谷さんの存在だった。

その作家と出会ったのは、東京で行われていた陶器のイベントに参加をした時。熊谷さんが作る「粉引(こひき)」という技術を施した器に目を引かれた。気になって話を聞くと、手法について教えてもらい、その学びをその後の陶器づくりで実践していくことになる。

「『いいものを作りたい』と漠然と考えていた中で、その作家さんに出会えたことで明確に目標設定することができるようになりました。自分がどんな強みを出して、お客さんに陶器を提供するのか。それが想像できると、どんな材料で、どんな技法を使う必要があるのか、どんどんイメージが湧くようになりました」

これまでの丹波焼とは異なる、シンプルさと柔らかな風合い

その作家の影響を受けて、田中さんは粉引を使った陶器づくりを行なっている。粉引とは、粘土の上に、白化粧という白い泥をかけ、釉薬をかけて焼いた器のこと。あたたかみのある、柔らかな白色になるのが特徴だ。

白化粧をすることで、素地とは違った印象になる

鉄分のある土を、松を燃料にした窯の中で焼いて作られてきた丹波焼では、器の表面が茶色や赤茶色のものが多く普及していた。暗い色味のものが多く作られてきた中で、田中さんは粉引を行うことで、これまでの丹波焼のイメージとは異なる色味、風合いの器を作っている。

「シンプルなものが好きということもあるんですが、この柔らかさがすごく気に入っています。粉引は難しいものではなく、器を作る職人のほとんどが一度は実践する技法のひとつ。そこに僕なりのエッセンスを付け加えて、オリジナリティーを出せるように意識しています」

また、白以外にも、アンティークイエローや茶色など、他の色味の釉薬を使うことで様々な色合いの器も製作。統一しているのは釉薬のかけ方。釉薬を薄く何層にも分けてかけることで、表面が少しざらざらした見た目になり、同じ色の中でも濃淡や色合いの変化を表現することを意識しているという。

見た目はざらざらしているものの、実際に田中さんが作る器を手にとって見ると、手触りはつるんとしていて気持ちいい。見た目だけでなく、使い心地も田中さんが大切にしていることのひとつだ。

「使い心地をよくするために、なるべく軽くすることも意識しています。例えばコップだと、薄く軽く作ることで、口当たりをなめらかにする。大きくなればなるほど、厚さが出るお皿も、なるべく薄く軽くすると、手触りや使い心地のよさが出てくるんです」

ひとつの器を使い続けられるように

また、手にとってもらった人に長く使い続けてもらう上で、「器の強度やきれいな風合いを残し続ける工夫が重要」と田中さん。粉引は、柔らかな色合いを表現できる一方で、繊細で壊れやすいのが特徴。長く使い続けるためには、その脆さを補強する必要がある。

また、陶器は吸水性があるため水や油の影響で、使っていくうちに、どうしても色味が変化してしまう。それは白い器だとより目立って現れるため、買ったときの色味を保つことが難しい。

田中さんは試行錯誤を重ねることで、使い心地に影響する、陶器の壊れやすさや汚れやすさの改善に取り組んできた。

「やっぱり器は使ってなんぼ。買ってもらったら、どんどん使ってほしいと思っています。買った状態のままを維持できるように、製造工程に手間を加えることで、壊れにくく、汚れにくいような工夫をしています。その分大変になるけど、それよりもお客さんが長く器を使えたり、使い心地がよくなっていったりするほうが大切だと思っています。もちろん風合いの変化を楽しむように器を育てていくこともいいなと思うんですが、何も気にせずどんどん使えて、ずっと買ったばかりの頃の表情を残している器もいいですよね」

 

そんな田中さんとトランクデザインがともに製作しているのが「SOBACHOKO」シリーズ。蕎麦ちょことしても使えるほか、コーヒーやお茶を楽しむカップとしても使うことができる器だ。

田中さんとトランクデザイン代表の堀内康広の出会いは、2018年。お互いが出店していたイベントで、田中さんの作品を見た堀内が声をかけた。

SOBACHOKOは、トランクデザインが手掛けたデザインをもとに、王地山陶器所の磁器・王地山焼で制作をしていたが、それを陶器でも作ろうと考えた堀内が田中さんにSOBACHOKOの製作を依頼した。

「もともと自分でも蕎麦ちょこを作っていたんですが、それとは大きさも形も異なるデザインだったので、製作をしながらとても勉強になりました。同じシリーズで違う作り手の商品があると、それぞれの違いが感じられて、それもおもしろいですよね」

スタッキングがしやすい形状のため、小さなスペースに収納可能

何気なく、手に取ってしまう器。そのよさを追求する

田中さんは器づくりを始めて25年になるが、粉引の技法を使って、自分らしさを表現するスタイルを見つけたのは、まだここ10年のこと。自身が考える「いいもの」を明確にした上で、より商品を多くの人に手にとってもらいたいと、今後の製作について意気込む。

「やっぱり自分がいいなと思えるものを作っていきたい。ただそれが自己満足になったらいけないなと思うので、手にとってくれた人の反応も見ながら、もっと多くの人に知ってもらうための展開をしていけたらいいなと思っています。今作っている器の雰囲気は壊さず、うまく発展させたものもつくっていきたいですね」

田中さんが器を作る上で大事な基準にしているのが、「自分が使いたいと思えるかどうか」。気づいたら手にとっていて、日常的に使ってしまう。そんな陶器づくりが目標だ。

「毎日同じ器を使ってしまうことってありますよね。これが使いやすいのかな、なんなんやろって。そんなふうに使い続けていても飽きのこない器を作っていきたいです。一枚そういうシンプルに使いやすい器があると、ほかには派手なものとか、いろんな器を持てますしね。抑えとしておいておけて、世代をまたいで使えるような器を作っていきたいなと思います」

感覚的に手に取ってしまうような器を、試行錯誤を重ねながら追求している田中さん。「白い器だからこそ、キャンバスとして見立ててもおもしろいと思っている」と話すように、自分のスタイルを見出して生まれた器をベースに、これからさらに様々なシーンや料理に合うような、シンプルで使い心地のいい器を求めて。これからも田中さんは、工房の中で陶器づくりを続けていく。

 

ディレクション・撮影:TRUNK DESIGN Inc
編集:柳瀨武彦
文章:宮本拓海

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